第11章 成人初期の発達:大人への移行
11-1. 終わらない青年期
青年期の終わりを定めるのは難しい
成人は日本では民法で20歳と規定
伝統的な見方からすると青年期の終わりは学校の卒業と就職、そして結婚というライフイベントによって定義される
寿命の延びに伴って学校卒業(就職)・結婚の年齢が徐々に遅くなっている
20歳で成人というは大学進学率がそれほど高くはなく、高校卒業と同時に就職し、20歳半ばで結婚するというライフコースを取る人が多数であった時代(1970年代頃まで)には理にかなっていたのかもしれない
大人になることへの歩みを続けなくてはならない
岡田(2007)が大学生を対象に青年期の終わりについて尋ねたところ、18歳から35歳まで幅広い回答が得られた
現代は大人として一体何が求められているのかを見通すことが難しくなっている
産業構造が比較的単純で、大人の姿を社会的にある程度統一して明示することができた時代
11-2. 職業人になること
11-2-1. 社会的役割と自己形成
集団を維持し、社会の中で一定の働きをしていくためには、集団内における様々な役割を構成員である個人が遂行しなくてはならない
個人がこのような社会的役割を引き受け、周囲からの期待に応えていく経験をすることを前提
人間は社会的役割を遂行しながら、自分自身を形成し、変化させていく存在
11-2-2. キャリア発達という見方
成人期へ移行したことを示す指標の一つに就職
職業
経済的な自律の基盤
スーパーは職業的観点から自己概念について検討し、自己概念が青年期以前に形成され始め、青年期に明確なものとなり、やがて職業的な用語で置き換えられると述べている(SUper, 1963) 職業選択が青年期までの自己概念の発達を踏まえて生じること、青年期は職業の探索段階であり、成人期において確立されていくことを指摘
アイデンティティにせよ自己概念にせよ、就職が決定すればそれで変化が止まるものではなく、さらに発達し続けていくもの
キャリア発達: 個々の人が生涯にわたって遂行する様々な立場や役割の中で、自己と働くことを関連づけ、意味づけしながら、自分の知的・身体的能力や情緒的な特徴、価値観などを一人一人の生き方として統合していくプロセス(岡田, 2014) スーパーら(Super et al., 1996)によればキャリア発達の各段階は、それぞれ「成長→探索→確立→維持→解放」という小さな発達課題の積み重ねからなっており(ミニ・サイクル)、これを繰り返しながら、ライフステージとしても「探索→確立→維持→解放」と進行していく(マキシ・サイクル) 11-2-3. 成人期初期のキャリアをめぐる問題
文部科学省の調査(2015)によると、大学生の約7割が卒業後就職を希望しており、そのうちの約97%が就職している
厚生労働省(2015)による調査では、大卒就職者の3割前後が3年以内に離職
割合は高卒、中卒になるとさらに高まる
離職の原因は労働環境や賃金という問題とともに、人間関係の悪さや仕事が合わないことなどが指摘されている(厚生労働省, 2014)
リアリティ・ショック
以前は精力的に仕事をし、まわりの人たちからも一目置かれる存在だった人が、急に燃え尽きたように意欲を失い、休職、ついには離職してしまうような現象(久保, 2007)
顧客にサービスを提供することを職務とするヒューマンサービス従事者に多いとされる
マスラックら(Maslach et al., 1981)はバーンアウトを情緒的消耗感、脱人格化、個人的達成度の低下という3つの側面から定義し、このうち情緒的消耗感が主症状であり、残りの2つはその副次的な結果だとしている バーンアウトの個人要因
ひたむきさや他者と深く関わろうとする姿勢といったパーソナリティの要因(久保, 2007)
ヒューマンサービス従事者にとって必要な特性でもある
未経験な人ほど、達成への期待、職務それ自体への期待、組織への期待が高く、この理想の高さが要因となるようである
リアリティ・ショックとも通じる
実際、大学病院勤務の新卒看護職を対象とした調査では、リアリティ・ショックがバーンアウトのリスクと関連していることが示されている(鈴木ら, 2005)
リアリティ・ショックやバーンアウトを防ぐための手立て
小川(2005)では、上司への信頼感が職務満足度を高めることが示唆されている
鈴木ら(2005)によれば、先輩や同僚、また職場以外での相談相手がいないことがバーンアウトのリスクを高めるという
メンターの存在がバーンアウト予防の手立ての一つであることを伺わせる
11-3. 他者と親密な関係を築くこと
11-3-1. 進む未婚化と晩婚化
成人期への移行を示すもう一つの指標として、結婚
1980年代までは男女とも生涯未婚率は5%に満たず、平均初婚年齢も20歳代半ばくらい
学校卒業後に就職し、20代のうちに結婚というのが一般的なライフコース
エリクソンの成人初期の心理社会的危機「親密 vs 孤立」
日本では少なくとも1980年代までは20代の発達課題だったといえる
1990年代以降、生涯未婚率(50歳の時点で一度も結婚していない人の割合)が上昇
2010年には男性で20%、女性も10%を超える
2010年時点で30代後半の未婚者の割合は男性で約36%、女性で約24%(総務省統計局, 2011)
平均初婚年齢も2008年に男性で30歳を超え、女性も30歳近くになり、その後も上昇が続いている
未婚化と晩婚化が顕著で、結婚は必ずしも成人初期の発達課題とはみなされなくなっているようだ
11-3-2. 恋愛行動に見られる男女差
国立社会保障・人口問題研究所の調査(2010)
1987年から一生結婚するつもりのない未婚者(20~35歳)は徐々に増えてきている
2010年で男性9.4%、女性6.8%
いずれ結婚するつもりという未婚者の割合は一貫して高い水準
2010年で男性86.3%、女性89.4%
未婚化・晩婚化は結果的にそうなったものと考えられる
明治安田生命生活福祉研究所(2014)は20~49歳の男女を対象に結婚をテーマとする調査を実施
未婚者の間で恋人のいない人が多数を占めており、その割合は女性よりも男性で高い
交際経験のない女性は交際経験のない男性の約半分
交際した人数も未婚男性より未婚女性の方が多い
男性は交際をあまり経験せずに未婚になっており、女性では交際を何度か経験したうえで未婚になっていることを示唆
内閣府の調査(2015a)
見込んで現在恋人のいない20~30代の男女のうち、「恋人が欲しい」人が約6割、「欲しくない」人が約4割
年収が400万円以上の人はそうでない人よりも「欲しい」とする割合が高い
自己効力感や社交性の高い人は低い人よりも「欲しい」とする割合が高い
収入の問題や出会いの少なさに加え、自分をまず充実させたいという思いが強い
女性では恋愛そのものに懐疑的な傾向が見られるのに対し、男性では女性とのコミュニケーションの取り方がわからないために、恋愛をためらっている様子が伺える
11-4. 複数の役割を担っていくのが人生
11-4-1. ゆらぐ伝統的性役割観
社会的役割が増えれば、それらの役割の間での時間やエネルギーの調整が必要
特に女性では配偶者・親役割と職業人役割の葛藤が古くから言われてきた
内閣府の調査(2015b)
夫は外で働き妻は過程を守るべきであるという質問の賛成の割合
1992年: 男性65.7%, 女性55.6%
2014年: 男性46.5%, 女性43.2%
11-4-2. ライフ・ロールとライフ・キャリア・レインボー
スーパーらは生涯にわたり共通して経験しうる社会的役割として、仕事(労働者)以外に、家庭人、市民、余暇人、学生、子供という役割(ライフ・ロール)を取り上げている(Nevill & Super, 1986) 自分らしさとよく言われるが、この観点からすると、役割(ライフ・ロール)の遂行の仕方にそれが表れると言える